2009年5月7日木曜日

マイナス金利

ブイターがFTに「マイナス金利:それはあなたの近くの中央銀行にいつやってくるのか?」という一文を書いている。

もちろん、マイナス金利の導入は中銀にとっては未知の領域で、そうである故に効果を確かめるわけにもいかず、かつてドイツのハイパーインフレを演出したハーフェンシュタインがゲゼルの指数通貨の提案に対して言ったように「新しい実験に手を染めるには慎重」ということになるのだろう。

しかし、現在、採られている非通常的な政策が中銀や財政当局の責任の境界を曖昧にし、中銀の独立性を害しているのもたしかにみえる。また、その効果のほどを疑問視する向きもいる。

前例のない時代の危機の時期、ブイターはゲゼルの課税貨幣を含め、マイナス金利の実現手法を紹介してくれている。簡単に要点を抜き出してみた。


問題

私は中央銀行がゼロが名目金利の底であるというふりをするのを止めるべきであるということでグッレッグ・マンキューに同意する。たとえば、フェド・ファンド目標金利や市場金利がマイナス5%でないいかなる理論的・実践的理由も、それがテイラールールが示唆することであれ、実践的なガイドがなんであれ政策金利が示唆することである場合には、存在しない。

科学としての経済学及び経済の現実は(インフレ調整済みの)マイナス実質金利につき決して問題を抱えることはなかった。では名目金利については何が問題なのか?ひとことで言えば、それは通貨である。

金融商品は持参人払い式証券(無記名証券)か記名証券(登録証券)に分類される。持参人払い証券は発行者が保有者を識別しない証券である。したがって、(強盗が申し立てた後)あななたがその反対を証明しえない場合、保有者あるいは持参人が所有者であり、占有が法の基本である。通貨は持参人払い証券の一例である。それは譲渡可能な持参人払い債券であり、それは引き渡すことで関係者に移転可能である。そしてそれを移転する関係者による裏書きを必要としない。多くの債券は同様に持参人払い証券であるが、しかし(経過した日々の利札の切り取りを含む)多彩なアレンジを通して非通貨の持参人払い証券に対する利払いの問題の解決を可能としてきた。

登録証券あるいは証券類は発行者が保有者を識別する証券類である。株式が一例であり、銀行口座や銀行が中央銀行に保有する準備金もそうである。マイナスであれプラスであれ、登録された証券に対する利払いは平凡なことである。今日、多くの場合、利払いは一定の電子帳簿への記入である。私が預金口座への年率5%のプラス金利を受け取る場合、私は100ドルを入金し、一年後に105ドルを得る。私が5%のマイナス金利を受け取る場合は、100ドルを入金し一年後に95ドルを得る。同じことは債券についてもある。マイナス5%の利付き一年物ゼロクーポン債を発行し、一年後、債券の発行を通して借り入れた100ドルごとにつき95ドルを債権者に支払う。

中央銀行は銀行が中央銀行に持つ預金(準備金)にマイナスの金利を支払わせることになんの問題もない。中央銀行からの商業銀行の担保で保証した状態の借り入れに料金をかけるのも、プラスの金利を請求するのもいずれもさして難しいものではない。もしミレニアムバグのような問題が名目金利の対数をとるプログラムやスプレッドシートにあるならば、(・・・)マイナス金利に対するそのような愚かな「技術的」障害を修正するためには時間外で取り組むべきである。銀行業務のなかに愚かさはあってはならないだろう。

通貨が唯一問題なのである。通貨に対する正の金利支払いは保有者を識別しないので困難である。同じ紙券が繰り返し同じ期間に利子を得るために提示されうる。この問題を回避するためには、証券自体が明らかに利子を支払う時かそうでないかを明確にできなければならない。一度利子が支払われると、伝統的なスタンプを押すことでしるしがつけられるか、証券からクーポンが切り取られるのである。

マイナス金利に関しては、問題は利子を請求するために頻繁に現れるその所有者ではない。それは彼をまったく現れないようにする。なぜなら当局は私が持つ通貨の所有者が私であることをしらないからであり、その特権のためになにゆえ私は政府の貨幣の支払いを買って出なければならないのか、だからである。

中央銀行に金利の低い底を割らせるのを妨げてきたのは(スイス以外にはいかなる話もない)、通貨に対するマイナス金利を支払わせることの明白な些細な障害なのである。

厳密に言って、この話は少数意見とみなされねばならない。もし通貨がもっとも流動的証券であるならば、どのような他の名目的にリスクフリーな証券もそれよりは稼げないし、ネットの持ち越し費用(保蔵コスト、安全維持、保険)がかかる。通貨の持ち越し費用は財務省証券や中央銀行の準備金よりも高い。したがってゼロを下回る範囲は厳密に言って、幾分ゼロを下回る範囲より低い。しかしマイナス5%のフェドファンド目標金利を達成するためには十分ではない。

幸いなことに、リスクフリーな名目金利をゼロを下回る範囲に限定することはきわめて簡単であることがわかる。

解決

マイナスの名目金利を実行するには三つの実践的方法が存在する。

1)廃貨。これは容易であり、そのほか多くの利益がある。主要な欠点は中央銀行にとってシニョレッジ(通貨発行益)の損失があるだろうことだ。「ミレニアムバグ」のような移行にともなう問題が、もし多数の下手なプログラマーが名目金利がゼロの底をうつときだめになるコードを書いていた場合に出てくるかもしれない(・・・)しかしこのことが意味することはせいぜい関連コードを書き直すオフィスでの無駄な二度の週末である。

先進国は電子的な、銀行口座ベースの支払い手段や交換メディアに、問題なく移行できる。銀行口座やクレジットカードのような「集権化されるかネットワーク化された電子メディア上での未決済勘定に対するマイナス金利はプラス金利同様に容易である。デビットカードは単に二口座間の資金移転であり、いずれもマイナス金利を支払い得るし、問題は起こらない。匿名の、チップカード上のキャッシュを持っているときでさえ、カード上の残高に同じ口座から資金を引き出して補充されるときはいつでも、最後の補充からのキャッシュカード上の平均残高を計算し、適用される(マイナスかプラスの)適切な金利が計算される。

匿名性を提供する通貨から利益を得ているのはただ犯罪組織のみである。彼らは脱税やマネーロンダリングに関与している。そして彼らは犯罪からの収益を格納し、将来の犯罪活動の手段を望んでいる。高額の銀行券は犯罪活動、半地下や地下経済に対するとりわけスキャンダラスな支援である。50ドルや100ドル銀行券にいかなる経済上の正当化もない。・・・

・・・

・・・正の、あるいはマイナスの利子を追加的コストなしに支払い得る電子マネーはいま誰もが利用しうるものになっていることは事実である。進んだ(ポスト)産業諸国では、伝統的な銀行口座やクレジットカード、デビットカードでさえ、名目金利にゼロを下回る範囲を作り出すのを制限することなしにほとんどの小売り支払いシステムで扱われうる。我々はほんとうに取引や商業を容易にするためにキャッシュを必要としない。それは不必要であるが、もちろん支配的な交換手段、合法的な取引の支払い手段である。

・・・
2)課税貨幣。「現時点での利子負担」をしめす「スタンプ」。これはシルビオ・ゲゼルの提案で、アーヴィング・フィッシャーが支持したものである。そしてマービン・グッドフレンドと私、そしてニコラス・バニギルツォグロウが政策論争に再導入したものである。通貨に対する金利が正であるとき、通貨には(匿名の)持参人が繰り返し利子支払いのためにそれを提示していないのを明確にするために(スタンプを押すかクーポンを切り取るかして)マークがしるされる必要がある。利子がマイナスの時は、(a)(匿名の)持参人はそのマイナス金利を受け取る(すなわち中央銀行に利子を支払う)ために名乗り出るよううながされるか、(b)マイナス金利が受領されていることを示し得なければならない。(b)を保証するためには、通貨は再度スタンプされるかマークされる(電子的にタグ付けされる)必要がある。

・・・

3)計算単位から通貨をアンバンドルする。この理想はすくなくとも1932年のアイスラーにさかのぼる。私は2004年にステファン・デービスによって注意を喚起された。・・・その基本的アイデアは単純である。価格や賃金契約、ほとんどの市場取引でドルが計算単位である経済において、通貨もドルであるという事実は(すなわち、Xドルの価値の通貨はXドルの価値の短期名目公債(あるいはXドルの価値の中銀リザーブ)を購入するという事実)名目利子率(通貨の交換率や短期名目債務が一定であるか、不変であることがなかろうが)にゼロを下回る範囲を作る。

そこで、ドル通貨を廃止して新通貨、レーロッドを導入する。レーロッドとドルの交換率は一定ではない。それは政府によって決定されるか市場に任される。前者の場合は政府(中銀)が政府が決定した交換率で需要に応じてレーロッドを供給する。後者の場合はレーロッド通貨のストックは外生的(政府によって決定されるが、与えられた交換率で需要される量がどれほどであれ政府から利用はできない)である。レーロッドは通貨であるから、レーロッド建て証券にゼロを下回る範囲が存在する(持ち越し費用は無視し、解決2はレーロッドには適用されない)。しかしもはやドルは通貨ではないので、ドル証券の名目利子率は正でありうるのと同様に容易にマイナスでありうる。
・・・

結論

・・・

名目金利をゼロを下回る範囲に移すことは中央銀行の政策の武器庫に貴重なる追加となるであろう。私たちはどのように金利が働くかについて何事かを知っている。政策金利のカットが、もしそれがが金利をゼロを下回る水準にカットされるなら、その有効性において劇的な変化が存在すると信ずるいかなる理由も存在しない。そして、中央銀行がゼロを下回る範囲にその手を置くことを望まなかった場合、私たちは中央銀行が採用せざるをえない代替的な政策の有効性についてなにも知らないのである。すなわち、量的緩和、信用緩和、中銀貸付の担保要求の緩和などなどについてである。

こうした代替的な手法は金融当局と財政当局の責任の区別をあいまいなものにする。それは中央銀行の独立性を害するものだ・・・

2 件のコメント:

Jota_Shimazaki さんのコメント...

去年、定額給付金の話が出た際に、対案として、「国内消費振興券」 http://www.kanshin.com/keyword/1630738 というのを提案しました。 「2)課税貨幣」と似たような考えだと思いますが、日本国内でもこういった案は政府からも出ないし、マスメディアも意見を取り上げない。 何らかの効果は期待出来ると思うのですが、どうして積極的に取り上げられないのでしょうね? 

a1m さんのコメント...

いろいろ主張している方はいるのですが、未知の領域に踏み込めない。そのくせ量的緩和などの非伝統的手法は手がける。まことに「こうした代替的な手法は金融当局と財政当局の責任の区別をあいまいなものにする。それは中央銀行の独立性を害するものだ・・・」なのですが、それで対処し、国は相変わらず財政を傷める国債増発でいく。国はいくら借金をしても大丈夫とホンネのところでは考えているのか・・・とさえ思ってしまう。

そのうち大英帝国が黄昏れた頃、元本を返さない代わりに保有者には生きている限り利息を払い続ける国債のようなものまで出すつもりでしょうか(^_^)。

課税貨幣は貨幣量を増やすものではなく(Mは増やさずに可能)、貨幣の流通速度Vを管理し(貨幣を使わずに持ち越すと税負担が発生し、使えば税負担は回避できるので貨幣を循環させます)、課税部分は国庫に入れることができますから、財政を好転させる効果さえあります。

しかしMの量を、インフレの懸念をものともせず、じゃやかすか増やしているわけです。しかしそれがどれほど循環しているかといえば、融資がきつい状況が改善されていない状況を見れば一目瞭然。増やしたカネは金融システムのなかに止まったままなのでしょう。