2009年9月30日水曜日

売買偽装

あくどいカネ貸しの手口はいろいろあるが金銭貸借を質物の売買契約として質物の損料までとる手口も昔からある。

安蔵「・・・これ幸兵衛さん、是だから少々たりとも入金をしなせいと、あれほど僕が談じたのに、何時でも同じ言訳のみ、仏の様な金兵衛さんでもこりやあ鬼にならねばならねえ、到底出来る目途がなければ、約定通り抵当の品を渡してしまひなせえ、先月の利子を元へ加へ十円といふ金高だから、渡して損はありやあしめえ。

幸兵衛「いえ、其様の金高になりましたのは存じませぬ、金兵衛殿から借りたは二円、僅かな内に八円も利足の溜る訳がない。

安蔵「それは二円の利子ばかりでは、さうなる訳はないけれど、今いふ蒲団一つ竈(べつつひ)鍋釜膳椀諸道具一式、証書の表は売渡し、金兵衛さんから改めて品をお前は借りるから、損料銭を出すのは当然、其処(そこ)で二円の利子に礼金三月しばりの書替に、踊りの利子に筆墨代(ひつぼくだい)日々遣ふ道具の損料、合(がつ)して八円何がしだが、端銭は負けて十円の証書で僕が扱つたのだ、せめて半金今五円入金するなら待つてやらう、それが出来ずば抵当の品を渡すはあたりまへ、ぐづぐづすれば僕が職掌・・・

幸兵衛「浮世を知らぬ私故、お借り申した二円の金、其利子ばかりと存じましたに、我品物に損料の出ますことは存知ませぬ。


黙阿弥、『水天宮利生深川(すいてんぐうめぐみのふかがわ)』

幸兵衛が借りたのは二円、質物には家財一式。なかなか返せないので、三月で借り換えの契約。契約は売買契約、つまり証書の表は売渡。しかし返済したときは自分に戻る(つまり買い戻し)。とはいいながら家財一式は使っていていいというもの。その代わりその品を使うにつき損料までとる。

さらにあくどいのは利子は踊りで取る。踊り貸しとは、借り換えのとき、前の借金の利子は返済した日の属する月の一ヶ月分をとり、またその月から借り換え借金の一ヶ月分を二重にとるやりくち。それで二円が十円の借金に仕立て上げられる。

貸借の売買契約偽装は今日でも金利を規制する法を逃れるために使われるという。それに踊り貸しのダブルパンチだ。幸兵衛さんのように、浮き世を知らぬとだまされる。

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