2009年11月16日月曜日

ドルのジレンマ

基軸通貨としてのドルの地位に関する議論にはやかましいものがあったが、フィナンシャルタイムスで、米国がドルという国際流動性の供給を独占してきたことにまつわる基本的なジレンマについてPaul De Grauweが取り上げている。

かつてのトリフィンの議論を呼び起こす議論でもあるが、ドルの先行きを考えるにつき忘れてならない視点であるので、ちょっとメモしておきたい。

ドルはなによりも米国の内国通貨でありながら、同時に国際流動性にもなっている。増加し続ける国際的なドル需要に応えていけば、それは国内の通貨政策と齟齬をきたす。そのドルのジレンマから米国がどうやって抜け出すか、私自身も市場が賢明にも賭けている方向にいくだろうと感じている。それは米国にインフレを不可避とするが、ありそうな選択肢ではある。

Paul De Grauweの議論はざっと読んだだけだが、こんな感じである。

ドルのジレンマ

Paul De Grauwe

最近のユーロや日本円のような主要通貨に対するドルの下落は壮観である。さらに壮観であるが、しばしば忘れられているのは、世界中の主要通貨に対する長期のドル安である。1960年以来、ドルは日本円やスイスフラン、独マルク(1999年以降はユーロ)に対してその価値の三分の二を失った。

長期のドル安は少なくとも1990年代前半以降、米国が優れた経済成果を生む、すなわち多かれ少なかれ同一のインフレ率でもって欧州や日本より高い生産性の伸びが見られたように考えられるのでとりわけ驚かされるようにみえる。しかし、優れた経済的成果の見かけにもかかわらず、ドルは、劣った経済体制を持っていると考えられた国の通貨に対して価値を失い続けた。このパラドックスはどこから来ているのだろうか。私の説明は国際通貨にとってのジレンマの存在に基づいている。世界(特にアジア)は、ここ25年間で成長が急速で、また成長し続けるだろう。急速に成長する世界経済は多くの流動性を必要としている。国際通貨で国際流動性を提供しなければならない。この機能を提供するただ一つの通貨が存在し、それはドルである。

米当局にとってのジレンマは現在、以下のような仕方で突然現れる。米国の金融当局はインフレ抑制を目的とする政策を採用する。英国やユーロゾーンの場合のように明白なインフレターゲットはないが、それが暗黙のものであることは確かである。この暗黙のインフレ目標は、ほぼ2パーセントであり、これには連邦準備制度理事会がドルを発行するとき、これらのドルがほぼ一定の(すなわち1年あたり2パーセントだけ減価して)米国商品やサービスのバスケットを購入するという暗黙の見込みを与えることが含意されている。米国経済が平均して1年でおよそ3パーセントの速度で伸びるなら、このことには、年間のドル供給の増加がおよそ5パーセントであるべきであること(2パーセントのインフレと3パーセントの経済成長)が含意される。

しかしながら、この価格安定への関与はドルの国際的な役割と衝突する。ドルの世界的な需要は米国の価格をほぼ安定に保つ5パーセントの通貨供給量の伸びを格段に超える年率で増加する。

したがって、米国の通貨当局は世界のドルへの高需要に対応する政策を選択しなければならないが、しかしそのことで、ドル供給は米国における物価の安定性をおおよそ維持するよりもはるかに速く増加していくであろう。あるいはまた、米国がインフレ目標に執着しても、それは、世界中のドルの高需要を犠牲にして、ドル供給をはるかに低いレベルに制限すること必要とする。

このジレンマは1960年代の金ドル本位制の時期に存在したものに類似している。その時、米国はドルを決まった価格で金に交換可能であることを保証した。金のストックはほぼ一定であったが、ドル需要が急速に増加したので、米国がドルへの世界的な高需要に対応する場合、あまりに多くのドルが決まったストックの金を入手しようとするので、金とドルの交換性を維持できないだろうということが、次第に明確になった。このジレンマはトリフィンによって分析された。(トリフィンは、1960年代に米国が金とドルの交換性を放棄しなければならないと予測した)。

したがって、このジレンマの現代版は、ドルを求める世界の需要を満たすために米国当局によって作り出された大量のドルがほぼ決まっている米国商品やサービスのバスケットと交換可能であるという約束に反していると予測する。

古いブレトンウッズ体制におけるように、米国がこのジレンマから抜け出るには二つの方法がある。一つはこの暗黙の約束を放棄することにある。これは物価の安定性に関与することの放棄に達する。ジレンマからのもう一つの道は、他国に対して米国が物価の安定性にこだわり、ドル(米国国債を含む)の供給を劇的に抑制することである。これは世界経済を悪性の不況に変えそうである。

市場は、米国がジレンマからの最初の出口、すなわち米国が物価の安定性への関与を棄てることを選ぶほうに賭けている。また、大量のドル供給が、米国当局にいかなる国も得ることができない財政赤字にファイナンスすることを可能にする極度に魅力的な特権であるので、それは妥当な賭けでもある。しかしこの選択は、米ドルが世界の主要通貨に対して幾年にもわたり下落を続けることを意味する。

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